釧路地方裁判所 昭和61年(行ウ)1号 判決 1995年3月14日
北海道帯広市西一八条南三丁目二五番二〇号
原告(亡池田宏承継人)
池田昭子
同所
原告(亡池田宏承継人)
池田昭子
北海道名寄市東一条北六丁目ノースタウンイチョウ四三〇号
原告(亡池田宏承継人)
鬼柳朋子
北海道旭川市永山一条一九丁目サンライズコスモ四G
原告(亡池田宏承継人)
池田憲保
右四名訴訟代理人弁護士
今重一
同
今瞭美
北海道帯広市西五条南六丁目
被告
帯広税務署長 山本忠広
右指定代理人
栂村明剛
同
小鷹勝幸
同
田端恒久
同
寺沢秀明
同
佐々木貞
同
折笠久雄
同
行場孝之
同
村松健文
同
房田達也
主文
一 被告が昭和五八年二月二五日付けで池田宏の昭和五四年分所得税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち総所得金額を一五六五万九九二一円として算出した税額を超える部分を取り消す。
二 被告が昭和五八年二月二五日付けで池田宏の昭和五五年分所得税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち総所得金額を一二八九万三七九四円として算出した税額を超える部分を取り消す。
三 被告が昭和五八年二月二五日付けで池田宏の昭和五六年分所得税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち総所得金額を一二六三万一二二四円として算出した税額を超える部分を取り消す。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、それを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五七年三月八日付けで池田宏の昭和五三年分所得税についてした、更正のうち総所得金額四八六万円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
2 被告が昭和五八年二月二五日付けで池田宏の昭和五四年分所得税についてした、更正のうち総所得金額三八三万〇七五〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
3 被告が昭和五八年二月二五日付けで池田宏の昭和五五年分所得税についてした、更正のうち総所得金額三九九万八八九一円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
4 被告が昭和五八年二月二五日付けで池田宏の昭和五六年分所得税についてした、更正のうち総所得金額三八二万〇一四七円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 池田宏は、米穀小売業を営む者であったが、同人の昭和五三年分ないし昭和五六年分の所得税についての確定申告、更正、異議決定、裁決等の経緯は、別表1の1及び1の2の各確定申告欄記載のとおりである。
2 本件各更正等には以下の違法があるから、取り消されるべきである
(一) 池田宏の昭和五三年分ないし昭和五六年分の所得は、確定申告のとおりであり、被告がした各更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各更正等」といい、各年分の更正等は「昭和五三年分更正等」のようにいう。)は、池田宏の所得を過大に認定した違法がある。
(二) 本件各更正等には、池田宏に対する何らの税務調書もしないままされた手続上の違法がある。
(三) また、本件更正等には、処分について何らの理由も付されていない違法がある。
(四) 本件各更正等は、税務調査に対して調査理由の開示を求めた池田宏に対する報復的意図でされたものであるから、権利の濫用である。
3 池田宏は、平成六年一月一一日に死亡し、その妻又は子である原告らが、相続により本件訴訟の原告であった池田宏の地位を承継した。
4 よって、原告らは、被告に対し、本件各更正等の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2(一)ないし(四)の主張はいずれも争う。
3 同3の事実は認める。
三 被告の主張
1 推計課税の必要性について
(一) 被告は、池田宏から提出された昭和五三年分ないし昭和五五年分の確定申告書を審理したところ、昭和五三年分について、昭和五三年一二月二六日に帯広市啓西土地区画整理組合から道路拡張に伴う休業補償として金六七〇万二五六〇円(以下「本件休業補償金」という。)を受領していたのに、これを事業所得の収入金額に計上していないこと、右各年分の申告所得金額が他の同業者のそれに比して過少であると認められること、右各年分の確定申告書には、所得金額は記載されていたものの収入金額及び必要経費の記載がなく、所得金額の計算内容が不明確であったこと等から、池田宏の昭和五三年分ないし昭和五五年分の所得税に関する調査の必要を認め、帯広税務署係官玉田光春及び佐藤務(以下、それぞれ「玉田係官」及び「佐藤係官」という。)に対し、調査を命じ、その後、池田宏の昭和五六年分の所得についても同様の理由で調査を命じた。
(二) 税務調査の経緯
(1) 昭和五六年四月二四日、玉田及び佐藤両係官は、池田宏方を訪れたが、同人が不在であったため同人の妻である原告池田昭子(以下「原告昭子」という。)に身分証明書を提出した上、昭和五三年分ないし昭和五五年分の所得金額の計算内容の確認のために来訪した旨を告げ、同月二七日に再度訪問することを告げた。
(2) 四月二七日、池田宏から玉田係官に対し、今日は商売の都合でだめだ、五月八日までに都合の良い日を連絡するとの電話連絡があったので、玉田係官らは調査を延期した。
(3) 玉田係官らは、池田宏から五月八日を過ぎても連絡がなかったので、五月一一日、池田宏方を訪れ、訪問の目的を告げたところ、在宅していた池田宏は、今日は都合が悪い、六月の中ころに都合の良い日を連絡する旨の返答した。玉田係官らが更に日程の検討をしておいてほしい旨依頼したところ、池田宏が、三回言って帰らないと不退去罪で警察に電話する等と大声を出したので、玉田係官らは池田宏に対する調査を行うことができなかった。
翌一二日、玉田係官が池田宏に電話したところ、池田宏は、今月は忙しい、来月電話する等の返答をした。
(4) その後、調査を引き継いだ清原征治及び池田真司係官(以下「清原係官」及び「池田係官」という。)らは、同年八月一一日、池田宏方を訪問し、原告昭子に対し、同係官らに連絡をくれるようにとの池田宏への伝言を依頼したが、池田宏から連絡がなかった。そのため、清原係官らが、八月二五日、池田宏方を訪問し、池田宏から九月三日に調査に応じるとの調査を取り付けた。しかし、その前日の九月二日になって、池田宏は調査に応じられないとの連絡をよこし、その後も調査日を約束しても直前に調査日の変更を求めることを繰り返した。
(5) そこで、清原係官は、一一月一六日、池田宏から調査日の変更を求める電話があった際に、池田宏の取引先等に対して反面調査を行う旨告げた。
(6) 昭和五七年一一月二六日、清原係官らが帯広信用金庫(以下「帯広信金」という。)柏林台支店で池田宏の税務調査を行っていたところ、池田宏、原告昭子及び民主商工会(以下「民商」という。)事務局員らが現れ、反面調査は私有財産の侵害、人権の侵害である等と発言して、調査を妨害した。
(三) 以上のとおり、池田宏は、税務調査の必要があったのに、調査に対して非協力的で、実額による同人の所得金額の把握ができなかったのであるから、推計課税の必要性があった。
2 被告の推計の方法について
(一)(1) 池田宏は、帯広市において米穀小売(その内訳は、玄米を仕入れて精米してする販売、精米を仕入れてする販売及び米穀以外の販売である。)を行っていた。
(2) また、池田宏は、札幌市において自然食品販売を行っていた。
(二) 玄米を精米して販売した売上金額(別表10<1>欄)
(1) 次のとおりである。
昭和五三年分 二億二二〇九万五二八三円
昭和五四年分 二億四八〇四万五五八五円
昭和五五年分 二億一二三〇万四九七三円
昭和五六年分 一億八四八〇万八七六五円
(2) 米穀小売業においては、使用電力の大部分が精米機の駆動に使用されるため、使用電力量と玄米の精米数量との間に高い相関関係が認められるから、池田宏の使用電力量を把握し、それから<1>使用電力量のうち精米機に使用する割合を九〇パーセント、<2>玄米を精米するのに必要な電力量を玄米六〇キログラム当たり一キロワットアワー(以下単に「キロワット」と記載する。)、<3>精米の歩留率を九〇パーセントとして、池田宏が精米した数量を算出した。
それに精米で仕入れた米を混米した数量を加えた。
そして、それに一キログラム当たりの平均的な小売単価を乗じて売上金額を算出した。
(3) 池田宏の各年の使用電力量(動力用)は以下のとおりである(別表2)。
昭和五三年分 一万〇五九八キロワット
昭和五四年分 一万一〇七八キロワット
昭和五五年分 九二七七キロワット
昭和五六年分 七九四〇キロワット
(4) (3)の使用電力量から(2)の方法で池田宏の精米数量を算出すると、
昭和五三年分 五一万五〇六二・八キログラム
昭和五四年分 五三万八三九〇・八キログラム
昭和五五年分 四五万〇八六二・二キログラム
昭和五六年分 三八万五八八四キログラム
となる。
(5) 池田宏が精米で仕入れたもののうち、混米に使用した混米数量は、以下のとおりである(別表7<2>欄)。
昭和五三年分 三万四六七八キログラム
昭和五四年分 五万一六三二キログラム
昭和五五年分 四万三二三八キログラム
昭和五六年分 三万七〇〇〇キログラム
(6) 昭和五三年分については、精米として仕入れた徳用上米三万八〇〇〇キログラムから、池田宏が国税不服審判所に提出した資料から販売したと推計される三三二二キログラムを減じたものを混米数量とした。
(7) 昭和五六年分については、徳用米の仕入数量三万七〇〇〇キログラムがすべて混米に使用されたものとした。
(8) 昭和五四年分及び昭和五五年分については、昭和五六年分の精米数量に対する混米数量の占める割合である九・五九パーセントをそれぞれの前記精米数量に乗じて算出した。
(9) 平均小売単価は、別表3記載のとおりパールライス年次別小売販売価格表に基づき算出した。
(10) 昭和五三年分については販売品目の割合が把握できなかったので、別表4の1記載のとおり単純平均を用いた。
(11) 昭和五六年分については、池田宏が購入した昭和五六年分の品名別袋の数量(別表5)から販売品目の割合を算出し、加重平均を用いて別表4の2記載のとおり平均小売単価を算出した。
(12) 昭和五四年分及び昭和五五年分については、別表6のとおり算出した小売単価上昇率(昭和五五年は昭和五六年の単価に対して九八・三二パーセント、昭和五四年は昭和五五年の単価に対して九七・八四パーセント)を昭和五六年の平均小売単価に乗じて算出した。
(13) 以上によれば、精米して販売した売上金額は、次の数式で算出される。
昭和五三年分 (五一万五〇六二・八kg(精米数量)+三万四六七八kg(混米数量))×四〇四円(平均小売単価)=二億二二〇九万五二八三円
昭和五四年分 (五三万八三九〇・八kg(精米数量)+五万一六三二kg(混米数量))×四二〇・四〇円(平均小売単価)=二億四八〇四万五五八五円
昭和五五年分 (四五万〇八六二・二kg(精米数量)+四万三二三八kg(混米数量))×四二九・六八円(平均小売単価)=二億一二三〇万四九七三円
昭和五六年分 (三八万五八八四kg(精米数量)+三万七〇〇〇kg(混米数量))×四三七・〇二円(平均小売単価)=一億八四八〇万八七六五円
(三) 精米を仕入れて販売した売上金額(別表10<2>欄)
(1) 次のとおりである。
昭和五三年分 六四五万九六三八円
昭和五四年分 一〇一六万二七七二円
昭和五五年分 五八六万三〇〇四円
昭和五六年分 一六六九万七七五〇円
(2) 池田宏が仕入れた精米の数量は、別表7<1>欄記載のとおりであるところ、前記(二)(5)の混米に使用した数量を減ずると、池田宏の精米の仕入れによる販売数量は、同表7<3>欄記載のとおり、
昭和五三年分 一万六一一二キログラム
昭和五四年分 三万〇一六八キログラム
昭和五五年分 一万四〇五二キログラム
昭和五六年分 五万〇六七〇キログラム
となる。
なお、各年の年初及び年末の棚卸数量については同量とした。
(3) 品名別の数量、小売単価(別表3に基づくもの)及び売上金額は、別表8の1ないし4の各該当欄記載のとおりである。
(四) 池田宏の米穀以外の売上金額(別表10<3>欄)
(1) 次のとおりである。
昭和五三年分 三九五万二六二八円
昭和五四年分 四四六万五四五四円
昭和五五年分 三七七万二九九六円
昭和五六年分 三四八万四八五三円
(2) 右金額は、昭和五六年分の類似同業者(被告が抽出したもの。その基準については後記3(二)のとおりである。)の総売上に対して米穀以外の売上金額が占める割合の平均値は、一・七パーセント(別表9の4)であり、これを用いて算出した(計算式 米穀売上金額÷(一-〇・〇一七)-米穀売上金額)。
(五) 札幌における自然食品の売上金額(別表15<1>欄)
(1) 次のとおりである。
昭和五四年分 一二八四万七〇九八円
昭和五五年分 一七七五万七七五八円
昭和五六年分 二七八七万八三二〇円
(2) 昭和五四年分ないし昭和五六年分の池田宏の自然食品の仕入金額は、別表11の合計欄記載のとおりである。
(3) 昭和五六年分の類似同業者の差益率は、三一・一五パーセント(別表12)であり、年初及び年末の棚卸金額を同額として、これを適用して算出したものである(計算式 仕入金額÷(一-〇・三一一五))。
(六) 雑収入金額(別表13<5>欄)
(1) 次のとおりである。
昭和五三年分 一七〇万三三九五円
昭和五四年分 一九六万五九二四円
昭和五五年分 一六〇万三四八四円
昭和五六年分 一二九万四一七〇円
(2) 池田宏の米穀販売及び米穀以外の総売上金額(札幌における自然食品販売及び本件休業補償金を除く。)は、前記(二)ないし(四)の合計である
昭和五三年分 二億三二五〇万七五四九円
昭和五四年分 二億六二六七万三八一一円
昭和五五年分 二億二一九四万〇九七三円
昭和五六年分 二億〇四九九万一三六八円
となる。
(3) 類似同業者の平均雑収入率は、別表9の1ないし9の4の雑収入率欄記載のとおりであり、これを(2)の売上金額に乗じると、
昭和五三年分 一六二万七五五二円
昭和五四年分 一八六万四九八四円
昭和五五年分 一四六万七〇〇四円
昭和五六年分 一一六万八四五〇円
となる。
(4) 池田宏のし尿処理券販売手数料は、
昭和五三年分 七万五八四三円
昭和五四年分 一〇万〇九四〇円
昭和五五年分 一一万六四八〇円
昭和五六年分 一二万五七二〇円
であり、これを(3)の額に加えた。
(七) 必要経費及び事業所得金額について
(1) 米穀小売の所得金額(別表14<9>欄)
次のとおりである。
昭和五三年分 一四八八万六五七二円
昭和五四年分 一七四一万一一四四円
昭和五五年分 一三七二万一四六一円
昭和五六年分 一三〇六万〇六七四円
(2) 類似同業者の平均売上原価率、平均標準経費率及び平均標準外経費率は別表9の1ないし9の各該当欄記載のとおりであり、前記(六)(2)の各年分の売上金額にこれを乗じて米穀小売による必要経費を算出すると、別表14の各該当欄記載のとおりとなり、売上金額から売上原価、標準経費金額及び標準外経費金額を減じ、雑収入を加えて所得金額を算出すると、別表14<9>欄記載のとおりとなる。
(3) 札幌における自然食品販売の所得金額
次のとおりである。
昭和五四年分 一三六万五六四六円
昭和五五年分 一八八万七六四九円
昭和五六年分 二九六万三四六五円
(4) 別表12のとおり、類似同業者の標準経費率(外注費、雇入費、建物減価償却費、地代家賃、借入金利子及び支払手数料以外の経費)は、一四・五三パーセント、標準外経費率は五・九九パーセントであり、前記(五)(1)の売上金額にこれを乗じて必要経費を算出し、売上金額から前記(五)(2)の仕入金額及び右の必要経費を減じて算出すると、別表15<5>欄記載のとおりとなる。
(八) 総所得金額
(1) 本件各係争年分の事業専従者控除額、不動産所得金額及び利子所得金額は、別表16の各該当欄に記載の通りである。
(2) 池田宏は、昭和五三年一二月二六日、帯広市啓西土地区画整理組合から、道路拡張に伴う休業補償として、六七〇万二五六〇円を受領した(本件休業補償金)。
(3) そうすると、各年分の総所得金額は、次のとおりとなる(別表16総所得金額欄)
昭和五三年分 二〇七八万九一三二円
昭和五四年分 一八六一万六七四〇円
昭和五五年分 一五九四万〇〇〇一円
昭和五六年分 一六九七万四七四九円
3 推計の合理性について
(一)(1) 推計に使用した<1>使用電力料のうち精米用に使用する割合は九〇パーセント、<2>玄米を精米するのに必要な電力量は玄米六〇キログラム当たり一キロワット、<3>精米の歩留率は九〇パーセントとする数値は、米穀小売業界での経験則による一般的数値であり、これにより算出した前記数値は合理的である。
(2) すなわち、通常、混米機、昇降機等精米機以外に使用する電力は全体の五ないし六パーセントであり、精米に要する電力量は玄米六〇キログラム当たり〇・七五キロワット(北海道では二〇馬力の精米機で玄米二〇俵を精米するのに七〇分くらいかかるとの資料(乙第一八号証)があるが、仮に右のとおりだとしても一馬力は〇・七五キロワットであるから、六〇キログラムであるから、六〇キログラム当たり〇・八七五ワットである。)、その際の歩留率は九一・七パーセントといわれ、食糧庁の米穀売却関係通達集によっても歩留率は九一パーセントとされている。
(3) したがって、右数値は、相当の余裕を見込んだ数値であるから、池田宏が寒冷地で営業しており、冬季間は夏季間よりも使用電力量が増加することを考慮しても、なお合理性を有するものである。
(二)(1) 被告が推計に使用した米穀以外の売上率、雑収入率、売上原価率、標準経費率、標準外経費率及び自然食品販売についての差益率は、以下の基準によって機械的に抽出された類似同業者から算出したものである。
北海道内(帯広、札幌)に事業所を有し、池田宏と同様に米穀小売又は自然食品販売業を営む事業者で、かつ、次のいずれにも該当するもの。
ア 昭和五三年分ないし昭和五六年分について、米穀小売又は自然食品販売を業とする青色申告書を提出する同業者。
イ 右の各年度のそれぞれの売上金額が池田宏のそれの半分以上二倍以下の範囲内にある者(以下「倍半基準」という。)。
ウ 国税通則法に基づく不服申立てがされ、現在審理中の者又は訴訟継続中である者以外の者。
エ 年を通じて米穀小売又は自然食品販売を営んでいる者。
オ 災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者。
(2) なお、帯広税務署が管轄する区域内には池田宏の事業内容(米穀小売)及び事業規模に見合う個人業者がいなかったため、札幌西税務署及び札幌南税務署の管轄区域内に事業所を有する法人を類似同業者として選定した。
(3) したがって、類似同業者の選定には被告の恣意が介入する余地はなく、右の基準に従って特殊事情のある業者を除外しているのであるから、各経費率及び差益率等は合理的なものである。
(4) また、自然食品販売については、右基準に該当する類似同業者は一業者であったが、右基準により特殊事情のあるものは除外して機械的に抽出しているから、一業者であることのみで右の推計が合理性を失うものではない。
(5) 被告が池田宏の類似同業者として抽出した業者は収入が黒字の業者のみであるが、食糧管理法(昭和五六年法律第八一号による改正前のもの)の下では米穀小売業者は登録制とされていたが(右昭和五六年改正で許可制となった。)、食糧管理法の定める登録制の目的、同法施行令及び施行規則に定める登録要件及び登録取消しの要件等に照らせば、実質的に許可制に等しく、米穀小売業は、地域的な寡占業種であるといえるもので、赤字経営が当然な業種ではなく、右が推計の合理性を左右するものではない。
実際に帯広税務署管内の平成三年の個人業者及び同事業年度の法人業者の申告状況によれば、許可を受けている業者のうち、米穀小売専業の業者を取り上げてみても、個人業者のすべてである一一件、法人業者一七件中一六件(一件は売上の大半を関連会社に仕入原価で販売するなどの特殊事情による赤字である。)が黒字の収支となっている。
また、平成三年は、昭和五六年と比較すると、販売許可業者数は五パーセント増加しているのに、米穀販売量は八二パーセントに減少していること(別表17)からも、昭和五三年ないし昭和五六年ころの米穀小売業者には特殊事情がない限り赤字業者はいなかったと推定することができる。
(6) 原告らは、一回二五〇俵以上の大量仕入れをしているか否かで原価率が異なるところ、被告の抽出した業者らは大量仕入をしているのに池田宏はしていないから被告の推計には合理性がないと主張するが、後記の原告らの実額の主張(別表19)から差益率を算出して、被告主張のそれと比較すると、別表18記載のとおりとなり、大差はないから、原告らの右の主張は理由がない。
4 以上によれば、被告の本件更正等は、右の被告の推計による池田宏の所得金額の範囲内でされたものであるから、いずれも適法である。
四 被告の主張に対する原告らの認否及び原告らの主張
1(一) 被告の主張1(一)の事実は知らない。
(二) 同1(二)及び(2)の事実は認める。
(三) 同1(二)(3)の事実のうち、玉田係官らが池田宏方を訪れ、池田宏が調査を断ったことは認め、その余は否認する。
(四) 同1(二)(4)の事実は認める。
(五) 同1(二)(5)の事実は認める。
(六) 同1(二)(6)の事実のうち、清原係官が帯広信金柏林台支店で池田宏についての税務調査をしようとした事実及び池田宏がこれを止めるように申し入れたことは認め、その余は否認する。
(七) 同1(三)の主張は争う。
(八) 同2(一)の事実のうち、(1)は認め、(2)は否認する。
池田宏は、以前、札幌で自然食品の販売を行っていたが、昭和五三年までには内山英郎に営業を譲っており、札幌での自然食品販売による収支は池田宏に帰属するものではない。
(九) 同2(二)の事実は、いずれも否認する。
(一〇) 同2(三)の事実は、いずれも否認する。
(一一) 同2(四)の事実は、いずれも否認する。
(一二) 同2(五)の事実は、いずれも否認する。
(一三) 同2(六)(1)ないし(3)の事実は否認し、(4)の事実は認める。
(一四) 同2(七)の事実は、いずれも否認する。
(一五) 同2(八)(1)、(2)の事実は認め、(3)の事実は否認する。
(一六) 同3(一)の事実は否認する。
(一七) 同3(二)(1)、(2)の事実は知らず、(3)、(4)の主張は争う。
(一八) 同3(二)(5)、(6)の事実は知らない。
2 推計課税の必要性について
池田宏は、被告の調査に対して、調査理由の開示を求め、調査理由範囲が明らかになれば必要な帳簿等の資料を開示すると調査の当初から申し入れていたのに、係官らは調査理由及び範囲を明らかにせず、ただ、全体の計算内容を見せてほしい旨主張するのみであった。
当時、池田宏は、原告昭子が化粧品の販売を始めていたこともあって出張が多く、やむなく調査日の変更を繰り返さざるを得なかったのであるが、池田宏の営業全体の調査に応ずる時間的余裕はないが、調査に必要な範囲を限定してもらえれば調査に応じることは可能であった。そこで、池田宏は、係官らに再三にわたって調査の理由の開示を求め、調査の範囲を明らかにしてもらえれば資料等を用意する旨伝えたが、係官らは具体的理由及び調査の範囲を明らかにしなかった。
したがって、被告が池田宏の税務調査をすることができなかったのは、専ら被告の右のような態度に起因するのであり、池田宏は必要な帳簿書類を提示すると申し入れていたのであるから、池田宏が調査に非協力ということはできない。
3 推計の合理性について
(一) 被告が精米量の推計のために主張する数値は、必ずしも一般的なものではなく、特に北海道のような寒冷地では精米機等の運転状況及び米の状態がかなり異なるから、右数値がそのまま当てはまるか疑問である上、使用電力量を基に推定を繰り返して算出したもので、池田宏の実際の所得金額とはかけ離れているものである。被告の推計方法が合理的であるというためには、類似同業者についても使用電力量を用いるなどして合理性が立証される必要がある。
(二)(1) 被告が池田宏の類似同業者として抽出した米穀小売業者は三業者であるが、帯広税務署管内でも営業規模が池田宏と類似する業者は一〇件以上あるのに、右三業者のみが類似同業者として抽出された理由が明らかでなく、抽出過程に疑問があるばかりか、米穀小売業においては、取扱品目、立地条件で差益率が大きく異なり、抽出された業者間においても経費率に三パーセントもの差があるものがあるなど、右の類似同業者と池田宏との類似性は極めて低く、右による推計は合理性がない。
(2) 被告が抽出した類似同業者は、いずれも一度の仕入れで二五〇俵以上を仕入ている業者と思われ、右のような大量仕入れをしていない池田宏とは原価率に大きな差があるのであるから、右による被告の推計には合理性がない。
(3) 米穀小売業者は収支が赤字の業者が相当数を占めるにもかかわらず、被告は、青色申告をした収支が黒字の業者から池田宏の類似同業者として抽出しており、被告の主張する推計の数値には赤字の業者が含まれていないから、池田宏の類似同業者の平均的な数値とはいえず、それによる推計に合理性があるとはいえない。
(三) 自然食品販売については、抽出された類似同業者が一業者のみであり、池田宏との経営状態の類似性は何ら明らかにされていないから右により推計することは合理性がない。
五 原告らの実額の主張
1 池田宏の事業所得は、別表19記載のとおりである。
2(一) 池田宏は、複写式の用紙を用いて仕訳等の会計処理を簡便に行うことのできる「ミロク式経理帳票システム」(以下「ミロク式帳簿」という。)を使用して、会計帳簿を日々作成していたから、池田宏の各年の売上、経費等を正確に把握することができる。
(二) 被告は、池田宏のミロク式帳簿について、後記六のように記帳の不備な点を指摘する。確かに池田宏の記帳には立替払後の精算、貼付の間違い等により記入日と支出日の異なる部分があるが、多くは全体を見れば説明ができるものである。また、右部分は全体からすればわずかであり、一部不正確であることを考慮しても、池田宏の帳簿による実額の主張の方がより実態に近い所得を把握することができることは疑いがなく、実額課税が原則であることからも右帳簿によって所得金額を算出すべきである。
(三) 被告は、実額の主張について領収証等の原始資料の裏付けを求めるが、多少の記帳の誤りはあるとしても日々作成された帳簿類が存在するときは右によって日々の営業及び経理は右帳簿類によって把握することができるのであり、帳簿類は原始資料がなければ証拠価値がないわけではない。
六 原告らの実額の主張に対する被告の反論
1 推計課税による更正の取消訴訟において、原告らが実額を主張して推計課税の違法性を主張しようとするときは、原告らにおいてその主張しようとする実額が真実の所得金額に合致することを合理的疑いを入れない程度に立証する必要がある。すなわち、原告らの主張する売上金額が池田宏の当該年分のすべての取引であること、経費等が右売上を得るのに必要なものであることを原告らにおいて立証しなければならない。
2(一) 原告らは、帳簿類を備え付けているとして勘定元帳等を提出するが、売掛金、買掛金等の資産及び負債の勘定科目については提出しないのであるから、勘定元帳による収入金額、必要経費等が正確であるか否かは不明である。
(二) また、提出した勘定元帳等についても、それを裏付ける伝票、領収証、預金通帳等の原始記録が提出されていないから、右が適切に記載されているかは不明である。
3 各帳簿類の基本となるべき池田宏の現金出納帳には、以下の点で正確に記載されていたか疑問である。
(一) 別表20の1(1)欄記載のとおり、
(1) 昭和五三年分現金出納帳の一月二八日の記帳欄に同月二五日の雑費四〇〇円、同月二二日の雑費一八〇〇円の支払が、
(2) 昭和五四年分のそれには七月三一日の記載欄に同月一日の現金一七万円の預金が、
(3) 昭和五五年分のそれには一月一八日の記載欄に同月一一日の現金二三万円の預金が、記載されている。
なお、昭和五六年分の現金出納帳には一二月三日の預金一一〇万円が同月四月と前後して記載されている。
(二) 別表20の1(2)欄記載のとおり、
(1) 昭和五四年五月二日の現金残高は五六万三七〇七円であるが、翌三日に入金がないにもかかわらず六〇万円の預金をし、
(2) 昭和五六年一二月三日の現金残高は九八万六六三二円であるのに一一〇万円を預金している。
(三) 昭和五五年分現金出納帳において、一月一八日以後に小切手によると見られる入金がないのに、同月九日、高橋建設の小切手八七万七〇〇〇円を預金している。
(四) ミロク式帳簿によれば、複写により必要な元帳等は一度に作成されるのに、別表20の1(3)欄記載のとおり、伝票が複写でないものがある。
(五)(1) 昭和五五年分仕入帳の五月二六日の記帳欄には玄米の現金仕入れ四二万五〇〇〇円が記帳されているが、同年分の現金出納帳には記帳がなく、
(2) 昭和五三年分現金出納帳の一一月二二日から二四日の間の記帳欄には玄米仕入れ六六万円が記帳されているが仕入帳には記帳がない。
(六) 昭和五三年分について、別表20の2記載のとおり領収証等と現金出納帳の記載に齟齬があるものがある。
4 提出された昭和五三年分の領収証についても、以下の理由で実額を立証したとはいえない。
(一) 昭和五三年分は仕入と必要経費の一部について原始資料が提出されているが、仕入金額の約九パーセント、必要経費額の約四〇パーセントにすぎす、すべての取引を裏付けるには到底足りないから、これらによって実額を把握することもできない。
(二) また、作成していたとする自由米取引に関するメモの提出もなく、代金決済が銀行送金により行われる自由米についても、領収証が一部しか提出されていない。
(三) 昭和五三年分の領収証等には、必要経費とされている旅費、接待交通費、雑費等について事業との関連性が疑わしいものがある。
5 以上のように、原告らの実額の主張は、帳簿類について原始記録の裏付けがない上、右のような帳簿の信憑性を疑わせる事情が存するから、右帳簿類から実額を把握することはできない。また、昭和五三年分の領収証等を検討しても必要経費の事業との関連性の立証がなく、原告らは実額による所得金額を立証したとはいえない。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び承認等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 課税処分の経緯及び相続について
請求原因1及び3の事実は、当事者間に争いがない。
二 推計課税の必要性等について
1 被告の主張1(二)中の当事者間に争いのない事実に加え、成立に争いのない乙第一号証の一ないし四、第一五号証及び証人清原征治の証言、池田宏本人尋問の結果(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、池田宏に対する税務調査の経緯は以下のとおりであることが認められる。
(一) 池田宏の昭和五三年分ないし昭和五五年分の所得税確定申告書には、それぞれ昭和五三年の所得金額として四八六万円、昭和五四年の所得金額として三八三万〇七五〇円(うち不動産所得二三万九九五〇円)、昭和五五年の所得金額として三九九万八八九一円(うち不動産所得三三万〇八九一円)と記載され、いずれも収入金額及び必要経費の記載がなく、昭和五三年分については一時所得欄に移転補償費として収入金額二二五九万九〇〇〇円、必要経費二二七二万二〇〇〇円と記載されていた。
被告は、収入金額及び必要経費の記載がないため収支関係が不明確であり、事業所得の収入金額として計上すべき休業補償金が適切に計上されていない疑いがあると判断した。さらに池田宏の経営規模を考慮すると、他の業者に比べて所得金額が過少であると考えられた。そこで、被告は、池田宏に対して税務調査を行うことにした。
被告は、後に昭和五六年分についても同様に調査の必要性を認めた。
(二)(1) 昭和五六年四月二四日、玉田、佐藤両係官が、税務調査のために池田宏方を訪れたが、同人が不在であったため同人の妻である原告昭子に昭和五二年分ないし昭和五五年分の所得金額の計算内容の確認のために来訪した旨を告げ、同月二七日に再び来訪すると告げた。
(2) しかし、四月二七日当日に池田宏から玉田係官に対し、今日は調査に応じられない、五月八日までに都合のよい日を連絡する旨の連絡があったため、玉田係官らは調査を延期した。
玉田、佐藤両係官は、池田宏から五月八日を過ぎても連絡がなかったので、同年五月一一日、池田宏を訪れたところ、池田宏は多忙と調査理由の説明のないことを理由として税務調査を拒絶し、更に早く帰らないと不退去罪で警察を呼ぶ旨の発言もした。
(3) さらに、調査を引き継いだ池田、清原両係官は、同年八月一一日、池田宏方を訪問し、原告昭子に電話をくれるように伝言を依頼したが、電話はなかった。
清原係官らは、同月二五日、再び池田宏方を訪れ、池田宏から九月三日に調査に応じるとの約束を取り付けた。しかし、前日の九月二日に池田宏から都合が悪いので調査に応じられない旨の連絡があり、新たに約束した九月一〇日についても、当日、調査に応じられないとの連絡があった。
(4) 同年一一月一六日も調査日として約束していたが、池田宏は当日になって調査期日の変更を求め、今後も調査期日の予定が立たないとの連絡をして来た。清原係官は、池田宏に対し、反面調査を行う旨を通告をした。
(三) 清原係官らは、池田宏の取引先の調査を開始したが、昭和五三年分については更正の期限が迫っていたので、昭和五七年三月八日、本件休業補償金を申告事業所得額に加算して更正した。
(四)(1) 清原係官は、昭和五七年九月一四日、池田宏方を訪れ、同月二二日に調査に応ずるとの約束を取り付けたが、同月二〇日、調査日には不在である旨の連絡があり、その後も池田宏から調査期日についての連絡はなかった。
(2) 清原係官らは、同年一一月一六日、帯広信金柏林台支店で反面調査を行おうとしたが、原告昭子から民商事務局員が来るのでそれまで調査を待ってほしいとの申入れがあったため、その日は調査を中止した。
(3) 同年一一月二五日、清原係官らは、池田宏方裏にある原告昭子が使用する化粧品販売の事務所で池田宏及び民商事務局員らと面接したが、池田宏らは、具体的な調査理由の開示を求めるのみで、帳簿等の提示はなかった。
(4) 同年一一月二六日、清原係官らが、帯広信金柏林台支店で池田宏の税務調査を行っていたところ、池田宏及び民商事務局員らが訪れて、私有財産の侵害、人権侵害である等、同係官らに抗議したため、反面調査をすこことはできなかった。
2(一) 以上の池田宏の確定申告の内容及び税務調査の経緯によれば、被告が確定申告の記載等から池田宏につき合理的に調査の必要性を認め、被告の各係官らが何度も池田宏と連絡をとり、池田宏方を訪問するなどしたが、池田宏は、多忙や調査理由の不開示を理由として調査に一度でも応じることをせず、被告の係官らが行おうとした反面調査にも抗議するなどしたものであり、その結果、担当係官の適切な裁量にゆだねられた税務調査の進行を著しく阻害したと認めざるを得ない。
したがって、本件においては、推計課税を行うための要件である池田宏の税務調査への不協力があったというべきである。
(二) 右判示の本件各更正等の経緯に照らせば、本件各更正等が何らの税務調査をしないままにされた違法なものであるとはいえないし、被告が池田宏に対して報復的意図を持っていたことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。また、更正等に理由を付すことは法律上求められてはいない。
したがって、原告らの請求原因2(二)ないし(四)の主張は理由がない。
三 帯広市における米穀小売に係る所得金額について
1 池田宏の米穀小売営業
被告の主張2(一)(1)の事実(帯広市における米穀等の小売)は、当事者間に争いがない。
2 玄米を精米して販売した売上金額
(一) その方式及び趣旨により公務員がその職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二六号証によれば、被告の主張2(二)(3)の事実(各年の動力使用電力量)が認められる。
(二) 効率
(1) 成立に争いのない乙第九号証によれば、昭和五〇年の社団法人日本精米工業会の測定(乙第九号証三二頁)によれば、玄米六〇キログラムを精米(「搗米」ともいう。)すると、〇・七五キロワットの消費電力では歩留率九一・七パーセントで白度三七・〇パーセントの標準価格米相当の品質となり、〇・九〇キロワットの消費電力では歩留率九一・二パーセントで白度三九・〇パーセントの自主流通米規格「雪印」相当の上質精米となる、また、米温が低いと加工性が低下し、米質の弱いとされる「北海道産しおかり」についての測定結果(同三五頁)によれば、米温〇度(摂氏)の場合、一・〇〇キロワットの消費電力で歩留率九一パーセント、白度三七パーセント程度となることが認められる。
(2) また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一八号証によれば、米穀業者が精米のために使用する電力のうち、混米機等の精米本機以外のために使用する電力量は、全体の一〇パーセントを超えることはないことが認められる。
(3) 以上によれば、被告が池田宏の動力用使用電力量のうち精米機に使用する割合を九〇パーセント、玄米六〇キログラム当たりの精米に必要な電力量を一キロワット、精米の歩留率を九〇パーセントとして精米数量を算出する被告の推計方法は相当である。
(4) 被告の推計方法に従い、前記の池田宏の使用電力量に〇・九(精米機に使用する割合)を乗じ、それに六〇を乗じて精米した玄米の量(キログラム)を算出し、さらに〇・九(歩留率)を乗じると、池田宏の精米量は、
昭和五三年分 五一万五〇六二・八キログラム
昭和五四年分 五三万八三九〇・八キログラム
昭和五五年分 四五万〇八六二・二キログラム
昭和五六年分 三八万五八八四キログラム
となる。
(三) 混米
(1) 昭和五三年分
ア 成立に争いのない乙第一二号証によれば、池田宏は、昭和五三年一月から一二月までにホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という。)から、合計三万八〇〇〇キログラムの徳用上米を仕入れたことが認められる。
イ 成立に争いのない乙第一六号証及び証人西谷英二の証言によれば、被告は、徳用米及び徳用上米は一般に混米に使用されることから昭和五三年分の池田宏の徳用上米仕入量(三万八〇〇〇キログラム)のうち、国税不服審判所に提出された半年分の資料(一月六日から六月三〇日までの物品受領書)から販売数量を把握し、それを二倍した数値である三三二二キログラムを販売し、残りの三万四六七八キログラムを混米に使用したものと推計したことが認められ、この判断を不相当とする事情は認められない。
(2) 昭和五四年分
ア 前記乙第一六号証、証人西谷英二の証言及び弁論の全趣旨によれば、池田宏は、昭和五六年中にホクレンから合計三万八〇〇〇キログラムの徳用米及び二万四四〇〇キログラムの徳用上米を仕入れたことが認められる。
イ 前記乙第一六号証及び証人西谷英二の証言によれば、徳用上米は混米に使用されないと考えたほうが売上金額の計算上池田宏に有利になると考え、右徳用米三万七〇〇〇キログラムのみを混米に使用したものとして推計したことが認められる。
(3) 混米の方法
ア 池田宏本人尋問の結果(第二回)によれば、池田宏は白米を混米する場合、混米機で玄米に白米を混ぜてから一緒に精米機にかけていたことが認められる(池田宏の右方法が一般的な方法ではないと認める足りる証拠はない。乙第一八号証参照)。そして、玄米に白米が混じった場合の精米に必要な電力量が被告主張の六〇キログラム当たり一キロワットより低く、歩留率が九〇パーセントよりも高いことを認めるに足りる証拠はない。
イ そうすると、昭和五三年分については、玄米からの精米量を四八万三八四・八キログラム(五一万五〇六二・八kg-三万四六七八kg)、混米量を三万四六七八キログラムと推計すべきである。
ウ 昭和五六年分については、結果において池田宏に有利になるように徳用米及び徳用上米のうち混米に使用される数量を低めに見積もった(2)の方法は、玄米からの精米量の推計においては池田宏に不利に働く結果となる。
そのため、昭和五三年分における混米に使用された割合九一・三パーセント(三万四六七八kg÷三万八〇〇〇kg)を他の係争年分における各仕入米(徳用米及び徳用上米)に乗じた数値を混米に使用された数量と推計すべきである。
そうすると、昭和五六年分については、徳用米三万三七八一キログラム(三万七〇〇〇kg×〇・九一三)、徳用上米二万二二七七キログラム(二万四四〇〇kg×〇・九一三)、合計五万六〇五八キログラムが混米に使用されたと推計すべきことになる。
したがって、昭和五六年分については、玄米からの精米量を三二万九八二六キログラム(三八万五八八四kg-五万六〇五八kg)、混米量を五万六〇五八キログラムと推計すべきである。
(4) 昭和五四年分
ア 前記乙第一六号証、証人西谷英二の証言及び弁論の全趣旨によれば、池田宏は、昭和五四年中にホクレンから徳用上米六万五三〇〇キログラムを仕入れたことが認められる。
イ そうすると、混米に使用した量を五万九六一九キログラム(六万五三〇〇kg×〇・九一三)と推計すべきであり、玄米からの精米を四七万八七七一・八キログラム(五三万八三九〇・八kg-五万九六一九kg)と推計すべきである。
(5) 昭和五五年分
ア 前記乙第一六号証、証人西谷英二の証言及び弁論の全趣旨によれば、池田宏は昭和五五年中にホクレンから徳用上米四万四六〇〇キログラムを仕入れたことが認められる。
イ そうすると、混米に使用した量を四万〇七二〇キログラム(四万四六〇〇kg×〇・九一三)と推計できるが、この数値は、被告主張の混米量四万三二三八キログラムより低いので、被告主張の混米量四万三二三八キログラムを採用することとする。
ウ したがって、昭和五五年については、玄米からの精米量を四〇万七六二四・二キログラム(四五万〇八六二・二kg-四万三二三八kg)、混米量を四万三二三八キログラムと推計すべきである。
(四) 平均小売単価
(1) 前記乙第一五、一六号証、成立に争いのない乙第一一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 各年の精米の種類別小売単価は別表8の1ないし8の4の各<2>欄記載のとおりであり、被告の調査による池田宏が昭和五六年に西川工業株式会社から仕入れた米袋の量及び仕入時期は別表5のとおりである。
イ 昭和五三年に池田宏が仕入れたゴールデン他の銘柄の平均小売単価(単純平均)は別表4の1記載のとおり四〇四円となる。
ウ 昭和五六年分の平均小売価格は、前記の池田宏が昭和五六年に購入した米袋から算出した各銘柄米の仕入量と小売単価から加重平均して算出すると、別表4の2<4>記載のとおり四三七・〇二円となる。
エ 小売単価の上昇率は、別表6の平均欄記載のとおり昭和五六年の平均小売単価に対する昭和五五年分のそれは九八・三二パーセント、また、右の昭和五五年分の平均小売価格に対する昭和五四年分のそれは九七・八四パーセントである。昭和五六年分の平均小売単価を用いて算出すると、昭和五五年分の平均小売単価は四二九・六八円、昭和五四年分のそれは四二〇・四〇円となる。
池田宏の玄米から精米して販売したものの平均小売単価の推計方法につき、被告の採用した右方法以上に合理的な方法の主張立証はない。
(2) 以上によれば、池田宏の各年分の玄米を精米して販売した売上金額(混米分を含む)は、次のとおり算出される(円未満切捨て)。
昭和五三年分
二億〇八〇八万五三七一円(五一万五〇六二・八kg×四〇四円)
昭和五四年分
二億二六三三万九四九二円(五三万八三九〇・八kg×四二〇・四〇円)
昭和五五年分
一億九三七二万六四七〇円(四五万〇八六二・二kg×四二九・六八円)
昭和五六年分
一億六八六三万九〇二五円(三八万五八八四kg×四三七・〇二円)
(五) 使用電力量からの推計に関する被告及び原告らの主張について
(1) 当裁判所は、以上に判示のとおり、被告の主張する動力用電力量のうち精米機に使用される割合九〇パーセント、玄米六〇キログラム当たり一キロワット、歩留率九〇パーセントとの数値を採用し、ただ、白米を玄米と混米してから精米機にかけるとの池田宏の主張を採用し、被告主張の計算方法に一部修正を加えたものである。
(2) 被告側からは、被告主張の推計方法は十分な安全率を見込んでいるから、仮に白米を混米してから精米機にかけるとの池田宏の精米方法が採用された場合においても、被告主張の推計方法に修正を加える必要はないとの主張が考えられる。
しかし、右の被告の主張は採用できない。
すなわち、被告主張の使用電力量からの推計方法は、前記(二)に判示したとおり米温が低く米質が弱い場合については安全性を見込んだものとはいえない。さらに、その根拠となる測定結果(乙第九号証三五頁)自体、「ただし、この試験では試験室内の外気温が二〇℃の良い条件で実施されているので、実際の空調されていない現地の工場では、もっと悪い条件にあり、北海道のような寒冷地にあっては、今後、工場全体の暖房に付いて留意する……」とし、寒冷地では、使用電力量の効率が更に悪いことを指摘しているところである。
また、前記乙第一八号証が「精米機以外の電力量の割合は概ね五から六%です。」と指摘している点も、精米機の販売を行っている者の経験からの指摘として重視されなければならないが、北海道内においても寒さに地域差があり、また、各工場の寒さ対策に差があることを考慮すると、一割を超す白米を混米してから精米機にかける点まで含めて安全率が見込まれていると認める根拠とはならないと考えられる。
(3) 池田宏(第二回)は、<1>精米機以外にも昇降機等多くの機械を使用していること、<2>寒冷地であるため機械を暖めたりするために電力を使用すること、<3>道産米の歩留りが悪いこと、<4>他より白度を高めていること、<5>白米を仕入れても再精米していること等と供述して、被告主張の使用電力量からの推計を批判する。
しかしながら、<1>の点は、前記乙第一八号証により認められる通常の機械の稼働方法と矛盾するから、採用できない。<2>、<3>の点は、被告が根拠とする測定結果(乙第九号証)及び精米機の使用電力割合(乙第一八号証)の中でも十分考慮に入れられている事項であり、それにより考慮に入れられていない部分は精米機の使用電力割合を九〇パーセントと控え目に算出していることにより補われていると認められる。
また、前記(二)に判示したとおり、被告の使用電力量からの推計を是認したのは、条件の悪い「北海道産しおかり」を白度三七パーセント程度にするためには、米温〇度(摂氏)の場合においても一・〇〇キロワットの消費電力で歩留率九一パーセントであったことを根拠としたものであるところ、池田宏は、道内産米ばかりでなく、本州産米を仕入れていたこと(この事実は池田宏本人尋問の結果(第一回)により求められる。)、白米を再精米する割合が不明である事を考慮すれば、<4>、<5>の点も被告主張の使用電力量からの推計方法を不合理たらしめるものではない。
3 精米を仕入れて販売した売上金額
被告が反面調査により、把握した前記仕入数量から、徳用米又は徳用上米のうち混米に使用したと推計されるものを減じ、その数量に、内訳に従ってパールライス価格表(別表3)による平均小売価格を乗じると、昭和五五年分については、別表8の3<3>欄記載のとおりとなる。
しかし、昭和五四年分については、徳用上米の仕入数量が五六八一キログラムになる結果、徳用上米(平均小売価格二五四円)の売上金額が一四四万二九七四円となり、合計売上金額も八一三万四〇七四円となる。
昭和五六年分については、徳用上米の部分を、徳用米の仕入数量が三二一九キログラム、その小売価格二一七円(前記乙第一一号証上から認められる年間を通しての平均小売単価程度)、徳用上米の仕入数量が二一二三キログラム、その小売単価二七〇円(年間を通じての大体の平均小売単価)と修正する結果、徳用米の売上金額が六九万八五二三円、徳用上米の売上金額が五七万三二一〇円となり合計売上金額が一一三六万八二八三円となる。
4 類似同業者の選択方法
(一) 前記乙第一五、一六号証、その方式及び趣旨により公務員がその職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一七号証及び第八号証の一ないし四並びに証人清原征治及び同西谷英二の各証言によれば、被告は、昭和五三年分から昭和五六年分についても、(1)米穀小売(精米を行っている者)を業とする青色申告書を提出する者、(2)各年度の売上金額が池田宏の売上金額の半分以上二倍以下の範囲にあるもの、(3)国税通則法に基づく不服申立てがなされ、現在審理中の者又は訴訟継続中である者以外の者、(4)年を通じて米穀小売又は自然食品販売を営んでいる者、(5)災害等により経営状態が異常であると認められるもの以外の者を推計課税のために池田宏の類似同業者として抽出したこと、米穀小売業については、右の基準を満たすものが帯広税務署管内では一件しかなかったが、札幌西税務署及び札幌南税務署管内に右基準に合致する法人形態の同業者が存在したのでその者を類似同業者として採用したこと、自然食品販売については、池田宏の札幌にある事務所を管轄する税務署及び近隣の税務署管内では右の基準を満たす同業者が存在しなかったが、帯広税務署管内に昭和五六年分について右基準を満たす法人形態の同業者が存在したのでその者を類似同業者として採用したこと、米穀販売等及び自然食品販売について、抽出された類似同業者(以下「本件類似同業者」という。)はいずれも法人であったため、法人の税込利益金額に役員報酬、従業員給与のうち代表者とその家族に対する金額及び地代、家賃等のうち代表者とその家族に対する金額を加算して個人業者と仮定した場合の所得金額を算出したことが認められる。
右によれば、その抽出過程に何らかの作為が介入したことをうかがわせる証拠はない。
(二) 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二二号証、成立に争いのない乙第二三号証並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第二四号証によれば、帯広税務署管内の平成三年の米穀小売業の許可件数は二一三件であること、そのうち農業協同組合等池田宏と明らかに類似性を有しないもの及び支店等を除く許可業者数は個人事業者五八件、法人事業者一〇二件の合計一六〇件であり、個人事業者五六件、法人事業者一〇〇件が申告をしており、酒類小売、燃料小売等と兼業していない米穀販売の専業者は個人事業者一一件、法人事業者一七件であること、右の専業者の申告は法人一件を除いて全て黒字の申告であること(なお、法人の所得は個人所得に換算したもの。)、平成三年と昭和五六年の北海道内での米穀販売数量と米穀販売許可件数(昭和五六年までは登録制であった。)を比べると、別表17記載のとおりであることが認められる。
(三) 原告らは、帯広税務署管内にも池田宏と類似する同業者が存在するとして、具体的な業者名を挙げるが、証人清原征治の証言によれば、被告が類似同業者を抽出する際に酒類の販売等も行っている業者が含まれていたので、池田宏と同条件を確保するために右の販売を行っている業者は除いたことが認められるのであるから、原告らの挙げる同業者が池田宏と類似していると主張するためには、単に規模だけではなく酒類を扱っていないことも主張しなければ適切な反論とはいえず、被告の推計の合理性を揺るがすものではない。
(四) 以上によれば、原告らの米穀小売業者は赤字の者が多いとの主張及び他に類似同業者が多数あるから被告の推計方法は不合理であるとの主張を認めることはできないから、前記認定の基準による被告の類似同業者抽出方法は合理的といえる。
5 米穀販売以外の売上金額について
前記乙第八号証の一ない三によれば、被告が抽出した本件類似同業者の総売上金額に対する米穀以外の売上金額の割合の昭和五六年分の平均は、別表9の4の米穀以外の売上率欄記載のとおり一・七パーセントであることが認められ、米穀売上額÷(一-〇・〇一七)-米穀売上金額の計算式を用いて米穀以外の売上金額を算出すると、次のとおりの金額となり、この算定方法が不合理であるとする事情は認められない(円未満切捨て)。
昭和五三年分 三七一万〇三四〇円
(二億〇八〇八万五三七一円+六四五万九六三八円)÷(一-〇・〇一七)-(二億〇八〇八万五三七一円+六四五万九六三八円)
昭和五四年分 四〇五万四九八五円
(二億二六三三万九四九二円+八一三万四〇七四円)÷(一-〇・〇一七)-(二億二六三三万九四九二円+八一三万四〇七四円)
昭和五五年分 三四五万一六九九円
(一億九三七二万六四七〇円+五八六万三〇〇四円)÷(一-〇・〇一七)-(一億九三七二万六四七〇円+五八六万三〇〇四円)
昭和五六年分 三一一万三〇四六円
(一億六八六三万九〇二五円+一一三六万八二八三円)÷(一-〇・〇一七)-(一億六八六三万九〇二五円+一一三六万八二八三円)
6 雑収入について
前記乙第八号証の一ない三によれば、本件類似同業者の雑収入率は別表9の1ないし9の4の雑収入率欄記載のとおりであり、その平均値を前記の池田宏の米穀及び米穀以外の各年分の売上金額に乗じ、当事者間に争いのないし尿処理券手数料の収入金額(別表13<4>欄)を加えると、雑収入金額は、次のとおりの金額となる。右算定方法が不合理であると認める事情は認められない。
なお、証人西谷英二の証言によれば、し尿処理券は本件類似同業者は販売していないものであり、池田宏の雑収入の算定に当たり、これを加える必要性があるものと認められる(円未満切捨て)。
昭和五三年分 一六〇万三六三〇円
(二億〇八〇八万五三七一円+六四五万九六三八円+三七一万〇三四〇円)×〇・〇〇七〇+七万五八四三円)
昭和五四年分 一七九万四四九二円
(二億二六三三万九四九二円+八一三万四〇七四円+四〇五万四九八五円)×〇・〇〇七一+一〇万〇九四〇円)
昭和五五年分 一四七万六八五五円
(一億九三七二万六四七〇円+五八六万六〇〇四円+三四五万一六九九円)×〇・〇〇六七+一一万六四八〇円)
昭和五六年分 一一六万九五〇六円
(一億六八六三万九〇二五円+一一三六万八二八三円+三一一万三〇四六円)×〇・〇〇五七+一二万五七二〇円)
7 経費額について
前記乙第八号証の一ない四によれば、米穀等の販売について、本件類似同業者の標準経費率及び標準外経費率を算出すると、別表9の1ないし9の4の各該当欄記載のとおりとなり、右を用いてそれぞれ所得金額を算出すると、別表21のとおりとなる(経費につき円未満四捨五入)。
四 札幌における自然食品販売について
1(一) 原告らは、札幌の「サンケン」の屋号で自然食品の販売は池田宏の営業ではないと主張するが、証人池田昭子の証言及び池田宏本人尋問の結果(第一、二回)によれば、昭和五六年当時も札幌で自然食品を販売していた「サンケン」の店舗は池田宏名で借りていたこと、仕入れ等取引の際に池田宏名義の口座を使用していたこと、池田宏の帯広市の店がサンケンと商品のやり取りをするときは、社内勘定を起こしていたことが認められ、また、証人池田昭子の証言により真正に成立したと認められる甲第五号証(昭和五三年仕入帳)にはサンケン四国物産払(ただし、社内勘定を仕入れと訂正。甲第五号証六枚目)との記載があることが認められ、前記乙第一六号証によれば、原告らがサンケンの経営者であると主張する内山英郎は本係争年中において、事業所得としてではなく、サンケンからの給与所得として確定申告していたことが認められることからすれば、サンケンの自然食品販売も池田宏の営業に帰属していると認めるべきである。
(二) 確かに、池田宏本人尋問の結果(第一、二回)によれば、池田宏が札幌の店から手を引きたいと考え、札幌の店を続けたい内山に対し、その旨を伝えた可能性があると認められるが、右に判示の取引口座名義をそのままにしておいたこと等からうかがわれるように、池田宏が経営からすべて手を引き、後は内山の経営となることを明確には伝えず、内山の意識は、依然として池田宏に雇用され、売上成績が上がらない場合は低い給料に甘んじざるを得ないというものであった可能性が強いといわなければならず、いずれにしても、サンケンが池田宏の営業に属することを左右するものではない。
2 推計課税の合理性について
(一) 仕入金額
前記第一六号証によれば、サンケンの自然食品の仕入先及び金額は別表11のとおりであることが認められる。
(二) 類似同業者の選択方法について
類似同業者の抽出方法は、前記三4に判示のとおりである。
(三) 類似性の有無
札幌での自然食品販売について被告の抽出した類似同業者は一件であるから、池田宏の営業との類似性についての立証を要するところ、本件においてはその立証はない。すなわち、帯広市で営業する類似同業者の標準外経費は一二五万七二〇九円(五・〇九九パーセント)であり、(乙第八号証)、その額からすると雇人費及び店舗賃借料が不要な経営形態であることがうかがわれる。
これに対し、札幌市で営業するサンケンは、内山英郎及び少なくとももう一人の従業者を雇用し(乙第一六号証四4項)、店舗は他から賃借していたものである(池田宏本人尋問の結果(第二回))。
さらに、サンケンの仕入金額は、前記認定のとおり、昭和五五年分一二二二万余、昭和五四年分八八四万余であり、類似同業者の売上原価一四八六万余を昭和五四年分において特に下回っている。
これらの事実によれば、昭和五四年及び昭和五五年分についてはもちろん、昭和五六年分についても、池田宏のサンケンの営業と類似同業者のそれとの間に類似性を認めることはできない。
(四) 結論
したがって、サンケンからの所得についての被告の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
五 総所得金額について
三7で算出した所得金額に、昭和五三年については当事者間に争いのない本件休業補償金(六七〇万二五六〇円)を加え、池田宏の各年分の事業所得金額を算出し、当事者間の争いのない事業専従者控除を減じ、当事者間に争いのない不動産所得金額及び利子所得金額を加えると、池田宏の各年分の総所得金額は別表22の総所得金額欄記載のとおりとなる。
六 実額の主張について
1 立証責任について
推計課税は、現実の所得が把握できないときに、実額課税に代替するものとして許されるのであるから、実額による課税が可能になれば推計による課税処分は取り消されることになるというべきであるが、実額を主張して推計課税による課税処分を覆すには、原告らにおいて現実の所得金額を主張立証する必要があると解すべきである。
右の立証は、正確な帳簿類が備え付けてあるときはそれによることが可能であるが、帳簿類の備付けがあっても帳簿類記帳相互の間及び他の客観的な証拠との間に整合しないものが指摘されるなどして帳簿類の記帳の正確性、信憑性が争われたときには、それを実額の立証に用いる原告らにおいて、右について合理的な説明をし、又は、それを裏付ける証拠を提出するなどして正確性について立証しなければならないことは当然である。
2 帳簿類の正確性についての検討
(一) 各年ごとの仕入帳と現金出納帳である甲第五号証と第九号証の一(昭和五三年分)、甲第七号証と第一一号証の一(昭和五五年分)によれば、現金仕入れに係る部分を見ても、以下の不一致がある。
(1) 昭和五三年については、現金出納帳に記帳がある一一月二二日の六六万円は、仕入帳に記載がない。
(2) 昭和五五年については、二月二九日の二五万五〇〇〇円は、仕入帳に貼付されているが抹消され、現金出納帳にはそもそも貼付がない。また、仕入帳に記載がある五月二六日の四二万五〇〇〇円及び一二月六日の二四九万二七二五円は、現金出納帳に記載がない。
(二) 原告らが提出した昭和五三年分の領収証(甲第一九号証ないし第二三号証)のうち、現金出納帳に記載されていないものは、別表20の2(2)記載のとおりである。
(三) 本訴において、被告が池田宏の売上金額の過少及び経費の過大を強く争っているにもかかわらず、原告らから提出された昭和五三年分の領収書類甲第一九号証ないし第二一号証(いずれも枝番のあるもの))は、原告らの主張金額すべてのものでなく、昭和五四年分ないし昭和五六年分につき裏付けとなる領収証、仕入れのメモ等は提出されていない。
(四) 正確な記帳に基づくという池田宏の昭和五三年分の売上原価率は、八六・二パーセントであり(別表19)、類似同業者のそれ(別表19の1)に比し、右年分だけ四パーセントほど高い。
この点につき、池田宏は、本人尋問(第一、二回)において、自由米相場に左右されたためであると供述するが、その事情は類似同業者にも当てはまるものであり、昭和五三年分の売上原価率が高いことを十分に説明するものではない。
3 以上によれば、原告ら提出の帳簿類は池田宏の全取引を正確に記帳しているかに疑問が残り、しかもその正確性は十分には立証されていないといわざるを得ないから、帳簿類によって原告らの実額の主張を認めることはできない。
七 よって、原告らの本訴請求は、主文一ないし三項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 小野瀬厚 裁判官 岡野典章)
別表 1の1
昭和五三年分
<省略>
昭和五四年分
<省略>
別表 1の2
昭和五五年分
<省略>
昭和五六年分
<省略>
表 2
原告の昭和53年分ないし56年分使用電力量(動力用)
<省略>
別表 3
パールライス年次別小売販売価格表
<省略>
別表 4の1
昭和五三年平均小売単価
<省略>
別表 4の2
昭和五六年平均小売単価
<省略>
表 5
米袋購入数量
<省略>
別表 6
小売単価の上昇率
<省略>
別表 7
精米仕入れ数量、混米数量、販売数量
<省略>
別表 8の1
昭和五三年精米仕入売上金額
<省略>
別表 8の2
昭和五三年精米仕入売上金額
<省略>
別表 8の3
昭和五五年精米仕入売上金額
<省略>
別表 8の4
昭和五六年精米仕入売上金額
<省略>
表 9の1 昭和五三年類似同業者売上金額等(米穀)
<省略>
表 9の2 昭和五四年類似同業者売上金額等(米穀)
<省略>
表 9の3 昭和五五年類似同業者売上金額等(米穀)
<省略>
表 9の4 昭和五六年類似同業者売上金額等(米穀)
<省略>
別表 10
<省略>
別表 11
自然食品販売「サンケン」の仕入れ金額等
<省略>
別表 12 昭和五六年類似同業者売上金額等(自然食品)
<省略>
別表 13
<省略>
別表 14 米穀等売上・所得金額
<省略>
別表 15 自然食品売上・所得金額
<省略>
別表 16
<省略>
別表 17
<省略>
別表 18
<省略>
別表 19 所得計算書
<省略>
別表 20の1
(1) 現金出納帳(記帳の日と取引日が異なるもの)
<省略>
(2) 現金出納帳(残高が赤字になるもの)
<省略>
(3) 伝票が複写でないもの
<省略>
<省略>
別表 20の2(1)
領収書の発行年月日と現金出納帳の記帳年月日が相違する書証一覧表
<省略>
別表 20の2(2)
昭和53年分年月日(甲9号証1)に記載されていない書証
<省略>
別表 21
<省略>
別表 22
<省略>